セキュリティ 2026-08-21 ⏱ 約 14 分

リスクアセスメントに着手する前に押さえる前提知識

リスクアセスメントを始める前に押さえておきたい前提知識を整理する。資産・脅威・脆弱性・リスクの基礎概念を軸に、NIST SP 800-30・ISO/IEC 27005・OWASP ASVS・NIST SP 800-63B・CVSS v4.0 の位置づけと、脅威モデリングや MITRE ATT&CK までを一枚の地図として俯瞰する。

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リスクアセスメントに着手する前に押さえる前提知識

概要

リスクアセスメントに取り組もうとすると、NIST・ISO・OWASPといった標準やガイドが次々に出てきて、「どれを・どの順で・何のために読めばいいのか」で迷いやすい。それぞれが扱う範囲は違うのに、用語や粒度もバラバラなまま並べると議論が噛み合わなくなる。

この記事は、リスクアセスメントのやり方そのものを解説するものではない。着手する前に共通言語として押さえておきたい前提知識を一枚の地図に整理することを目的とする。具体的には次を扱う。

特定のドメインには寄せず、汎用的な前提知識として整理する。

基礎概念:資産・脅威・脆弱性・リスク

すべてのドキュメントの土台になるのが、次の4つの用語である。まずここを揃えないと、以降の議論がずれる。

用語 定義
資産(Asset) 守りたいもの 個人データ、システム、サービスへの信頼、可用性
脅威(Threat) 資産に害を与えうる事象・主体 外部攻撃者、内部不正、設定ミス、災害
脆弱性(Vulnerability) 脅威に悪用されうる弱点 実装バグ、設計不備、運用不備、パッチ未適用
リスク(Risk) 脅威が脆弱性を突いて資産に影響を与える可能性 × 影響度 「公開サーバーの既知の脆弱性が悪用され、個人データが漏洩する」など

重要なのは、リスクを次のように分解して捉えることである。

リスク = f(脅威の発生可能性, 脆弱性の悪用しやすさ, 影響の大きさ)

この3変数を軸にすると、各ドキュメントを「どの変数を扱っているか」で位置づけられる。以降はこの分解を背骨として使う。

全体マップ:各ドキュメントがどの変数・どの層を担うか

主要な5つと補完手法を、リスクの3変数と「層」で整理すると次のようになる。

ドキュメント 主に担う変数 一言でいうと
NIST SP 800-30 可能性 × 影響(測り方) プロセス(測定) リスクをどう測るか
ISO/IEC 27005 対応・受容基準(測った後) プロセス(枠組み) どこまで受け入れ、どう扱うか
OWASP ASVS 脆弱性(網羅的な洗い出し) 技術(検証) 何を検証すべきか
NIST SP 800-63B 脆弱性・対策の強度 技術(認証固有) 認証の強度の物差し
CVSS v4.0 脆弱性の深刻度(採点) 技術(採点) 個別脆弱性に点を付ける
脅威モデリング(STRIDE) 脅威(設計時の洗い出し) 手法 脅威を体系的に列挙する
OWASP Top 10 / MITRE ATT&CK 脅威(攻撃の語彙) 語彙 攻撃を語る共通言語

層で見ると、大きく「プロセス層(枠組み・測定)」と「技術層(検証・採点)」に分かれる。

flowchart TB subgraph P["プロセス層:枠組みと測定"] ISO["ISO/IEC 27005(対応・受容基準)"] SP30["NIST SP 800-30(可能性 × 影響)"] end subgraph T["技術層:検証と採点"] ASVS["OWASP ASVS(脆弱性の検証)"] SP63["NIST SP 800-63B(認証器の強度)"] CVSS["CVSS v4.0(脆弱性の採点)"] end subgraph TH["脅威の洗い出し・語彙(補完)"] STRIDE["脅威モデリング(STRIDE)"] ATTACK["攻撃パターンの語彙"] end ISO --> SP30 SP30 --> ASVS SP30 --> CVSS SP63 --> ASVS ASVS -. 補完 .-> STRIDE STRIDE -. 語彙 .-> ATTACK

この地図で見ると、5つのドキュメントは脆弱性・影響・測定/対応に厚く、脅威そのものの洗い出しが手薄だとわかる。そこを補うのが最後のセクションで触れる脅威モデリングと攻撃の語彙である。

各ドキュメントで押さえること

以下、各ドキュメントを「何のための文書か/押さえる要点/3変数のどこを担うか/使いどころ」で整理する。

NIST SP 800-30 Rev.1 — リスクの測り方

リスクアセスメントの手順を定めた文書。「リスクをどう測るか」への直接の答えになる。

ISO/IEC 27005 — リスクマネジメントの枠組み

リスクマネジメント全体の枠組みを示す文書。800-30が「測り方」なら、こちらは「測った後どうするか」まで含む。

OWASP ASVS — 何を検証すべきかのチェックリスト

アプリケーションのセキュリティ検証項目を体系化したリスト。「脆弱性」側を網羅的に洗い出すツールとして使う。

NIST SP 800-63B — 認証器の強度の物差し

認証の強度を測るための物差し。認証まわりのリスクを論じるときに効く。

CVSS v4.0 — 個別脆弱性の採点

個別の脆弱性に深刻度スコアを付けるための共通指標。

5つだけだと手薄な領域:脅威の洗い出しと攻撃の語彙

全体マップで見たとおり、5つのドキュメントは脆弱性・影響・測定/対応には厚い一方、脅威そのものをどう洗い出すかが手薄になりやすい。ここを補うのが次の2つである。

脅威モデリング(STRIDE など)

設計段階で脅威を体系的に列挙する手法。STRIDEは次の6カテゴリで脅威を洗い出す。

ASVSの「何を検証すべきか(What)」に対して、脅威モデリングは「そもそもどんな脅威があるか」を埋めるので、両者は相補的である。

OWASP Top 10 / MITRE ATT&CK

実際の攻撃パターンを語るための語彙として使う。

これらは脅威と脆弱性を「実際の攻撃」として結びつけ、リスクの可能性を具体的に見積もる助けになる。

まとめ

参考リンク

Tags: セキュリティ リスクアセスメント NIST OWASP CVSS
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